「AIに任せると、うちらしさが消える」とはどういう不安か
「AIに任せると、うちらしい言葉づかいが消えて、どこの会社とも同じ無機質な定型文になるのでは」という不安の正体は、AIが最初から持っている一般的な言い回しのまま使う前提で考えていることにあります。たしかに、何も渡さずに使えば、返ってくるのはのっぺりした当たり障りのない文章です。でも、自分がよく使う言葉、断るときの言い方、お礼の一言を渡せば、AIの文章はそちらに寄っていきます。らしさが消えるのではなく、らしさをまだ渡していないだけ、という状態です。
僕は合同会社9Zという会社を一人で回していて、営業も問い合わせ対応も、実際にAIへ任せています。最初に返ってきた文面は、正直、自分の言葉ではありませんでした。ただ、直していくうちに気づいたのは、消えていたのは「らしさ」ではなく、「らしさを言葉にして渡す作業」のほうだったということです。
らしさは、三つの部品でできている
自分の店の「らしさ」を分解すると、渡せる形が見えてきます。中身は、だいたい三つです。
一つ目は、どこを大事にしているか。急ぎの相手にはまず時間の目安を伝える、値段より先に安心を伝える、断るときも次の手を添える——その店が何を優先しているか、という価値観です。二つ目は、よく使う言い回し。あいさつの一言、締めの言葉、お客さんを呼ぶときの言葉づかい。三つ目は、言ってはいけない線。安請け合いしない、できないことをできると言わない、この話題には触れない、といった禁じ手です。
この三つは、どれも渡せます。そして面白いのは、渡そうとすると、自分でも言葉にできていなかったことに気づく点です。らしさが社長の頭の中だけにあるうちは、その人が対応した時としない時で、店の色がぶれます。言葉にして渡しておけば、誰が受けても——AIが一次受けしても——同じ色で返せる。属人化していたものを、むしろ揃えられる。
無機質になるのは、AIだからではなく渡す材料が空だから
ここが肝心なところです。文章が無機質になるのは、AIを使ったからではなく、渡す材料が空っぽだからです。
よそから買ってきたテンプレートを、中身を変えずにそのまま貼れば、どんな道具を使っても没個性の文章になります。逆に、自分の言葉で書いた過去のメールや、いつもの返し方を渡せば、AIはその型に沿って書きます。道具の問題ではなく、材料の問題だということです。
「冷たく感じないか」という不安と、この「らしさが消える」という不安は、似ているようで別の話です。前者は、受け取ったお客さんがそっけないと感じないか、という受け手側の心配。後者は、自分の店の色が薄まらないか、という送り手側の心配です。どちらも、材料を渡すことと、大事な場面を人が書くこと、この二つで対処できます。受け手の印象のほうが気になる方は、AIの対応はお客さんに冷たく感じられないかもあわせて読んでみてください。
どこを自社の言葉で任せ、どこを人が書くか
線の引き方は、感情の重さで分けます。
自社の言葉でAIに任せてよいのは、繰り返しの多い場面です。問い合わせへの一次返答、日程の案内、よくある質問への答え、受け取りましたという確認。これらは中身が決まっていて、そこに自分の言い回しを乗せれば、じゅうぶん「らしく」返せます。
人が書くのは、感情がこもる場面です。心のこもった謝罪、常連の名前を出した一対一の言葉、込み入った事情への配慮、きわどい判断を含む返事。ここはAIに下書きさせず、自分の手で書く。あるいはAIが整えた下書きに、最後は自分の言葉を重ねる。無機質に見えるかどうかは、たいていこの「感情がこもる一通」で決まります。そこさえ人が握っていれば、残りをAIが自社の言葉で受けても、店の色は保てます。
自社の色をAIに移すやり方
難しい設定は要りません。やることは単純です。
まず、自分が過去に送った返信を何通か渡します。断りの一通、感謝の一通、案内の一通——ふだんの言い回しが出ているものがいい。次に、AIが返した下書きを読んで、違和感のある言葉を直します。「この言い方はうちはしない」「ここはもっと柔らかく」。この直しが、そのまま材料になります。往復を重ねるほど、返ってくる文面は、自分が書いたものに近づいていきます。
一度に完璧を目指す必要はありません。いちばん数の多い問い合わせ一つから始めて、自分の言葉に寄ってきたら、次の場面に広げる。この進め方なら、らしさを保ったまま、受けの手間だけを軽くできます。
よくある質問
Q. AIが書いた文章だと、お客さんに分かってしまいませんか。 A. 自分の言い回しを渡して整えていけば、いつもの文面との差はほとんどなくなります。それでも、人になりすます書き方はしません。込み入った相談や感情のこもる場面は人に代わる出口を用意しておく——この線を守っていれば、隠しているという後ろめたさも残りません。
Q. うちの言葉づかいは独特です。それでも寄せられますか。 A. 独特なほど、渡す価値があります。方言まじりの柔らかい言い方でも、職人らしいぶっきらぼうな短い返しでも、実際の文面を渡せばその型に沿います。むしろ一般的な言い回しから始めるより、あなたの過去のメールから始めたほうが、早くあなたの色に近づきます。
Q. 途中で「これは違う」と思ったら、直せますか。 A. 直せます。返ってきた文面で気になる言葉を直すたびに、それが新しい材料になって、次からは反映されます。最初から完成させるのではなく、使いながら自分の色に寄せていく道具だと考えてください。
Q. 大事なお客さんへの連絡まで、AIに任せることになりませんか。 A. なりません。感情のこもる一通や、常連への一対一の言葉は、人が書く場面として最初に線を引いておきます。AIが受け持つのは、繰り返しの多い一次受けまで。どこから人が書くかは、あなたが決めます。
Q. 結局、らしさを保つために何を用意すればいいですか。 A. 三つです。何を大事にしているか、よく使う言い回し、言ってはいけない線。この三つを、過去の文面という形で渡すのがいちばん早い。書き出せなくても、実際に送ったメールの中に、もう表れています。
まとめ
らしさが消えるのは、AIに任せたからではありません。らしさをまだ言葉にして渡していないから、一般的な文面のまま出てくるだけです。何を大事にしているか、よく使う言い回し、言ってはいけない線——この三つを過去の文面ごと渡せば、AIの一次受けは自社の色に寄っていきます。感情のこもる一通だけを人が握り、残りを自分の言葉でAIに受けさせる。この線を引ければ、店の色を保ったまま、受けの手間を軽くできます。
僕の会社では、AIが取引先ごとに言葉を変えて営業のメールを書いています。相手の会社を調べて、こちらの言い回しに沿って、一社ずつ違う文面を組む。最初はのっぺりしていたものが、自分の大事にしている点や口ぐせを渡すほど、自分が書いたものに近づきました。人を増やして会社を広げようとした時期に膨らんだのは、この手の連絡と書類で、利益が先に細っていった。今は判断以外の受けと文面をAIに寄せ、売上を変えずに、利益率が戻ってきました。らしさは、渡せます。まずは、いちばん数の多い問い合わせ一つを、自分の過去の返信ごと預けてみてください。
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