AIに事務を任せた社長は、何をするのか
結論から言うと、社長がやるべきは、これまで雑務に潰されて手が回らなかった判断と、お客様との対話や次の一手の構想です。事務は社長にしかできない仕事ではありません。AIに問い合わせの一次受けや書類の下ごしらえを任せて空いた時間を、利益の出る仕事に振り直す——これがAIに事務を任せたあとの、社長の時間の使い方です。
「事務をAIに任せたら、自分は何をすればいいのか」「暇になるのではないか」という不安は、AIを社長の椅子に座る置き換えとしてイメージするから生まれます。実際に任せるのは、判断の要らない入口の作業です。だからAIは社長の代わりに座るのではなく、雑務に埋もれていた社長を、本来やるべき仕事のほうへ引き上げます。ここを取り違えると、いちばん時間を取り戻せるはずの社長業が、手放すのが怖くて動かないままになります。
なぜ「自分の仕事がなくなる」と感じてしまうのか
手放すのが怖くなるのは、中小企業の社長が、事務も自分の仕事の一部だと長く感じてきたからです。
一人や少人数で会社を回してきた社長ほど、営業も現場も、見積もりも請求も、問い合わせの返信まで全部自分でやってきています。だから、事務をAIに渡すと聞くと、自分の仕事の半分がなくなるように感じる。やることがなくなって手持ち無沙汰になるのでは、現場の感覚を失うのでは、なんだか手を抜いているようで落ち着かない——そういう引っかかりが出ます。
けれど、事務のほとんどは、社長でなくても回せる作業です。問い合わせを受けて要点を書き取る、返信の下書きを作る、書類を整える。これらは会社にとって必要ですが、社長の時間を使わなければできない仕事ではありません。むしろ、受けるか断るか、いくらで出すか、どの仕事を誰に任せるか、次に何を仕掛けるか——ここにこそ社長の時間を使うべきで、そこが雑務で削られているのが、多くの中小企業の実際です。人を増やすことが必ずしも余裕につながらない構造は人を増やしても利益が増えないのはなぜかにも書きました。
空いた時間を、何に振り直すか
事務を手放して空いた時間は、社長にしか動かせない仕事に配り直します。
一つは、判断です。受けるか断るか、いくらで出すか、どの案件を優先し、誰に任せるか。AIは一次受けと下ごしらえまでを担い、最終の判断は社長に残す設計なので、空いた時間はそのまま判断の質に回せます。二つ目は、お客様との対話や関係づくりです。事務に追われて後回しになりがちな、既存客への連絡や込み入った相談への対応に、腰を据えて向き合えるようになります。三つ目は、次の一手の構想です。新しい商品やサービス、値付けの見直し、取引先の開拓——会社を前に進める考えごとは、まとまった時間がないと進みません。事務を渡すと、その時間が戻ってきます。
「事務を手放すのは手を抜くことではないか」という引っかかりは、ここで解けます。手を抜くのではなく、限られた時間を、利益の出る仕事のほうへ配り直す。何を人に残し何をAIに渡すかの線引きは、AIに任せる仕事と人がやる仕事の線引きの考え方が参考になります。仕組みの全体像はAI従業員のサービス紹介で確認できます。
僕自身、事務を抱えて事業を止めていました
正直に言うと、僕はこの回り道をしています。
僕は足立区で合同会社9Zという会社を一人で経営しています。もともと得意なのはアイデアを出すことや事業を組み立てること、決めることで、逆にいちばん苦手なのが実務を回し続けることでした。以前、事業を大きくしようと業務委託で人を増やした時期がありましたが、人が増えるほど連絡や確認、書類のやり取りが膨らんで、かえって利益が圧迫された。しかも、伝える時間や事務に追われて、いちばんやるべきだった構想や判断に手が回らなくなっていました。そこで考え方を変えて、いまは業務委託を一社に絞り、人がやるべき判断以外の事務——問い合わせの一次受け、返信の下書き、書類の前準備——をAIに任せています。結果として、売上を落とさずに利益率を手応えとして戻せました。
事務を手放して分かったのは、空いた時間で暇になるどころか、これまで手が回らなかった判断と構想に、ようやく時間を使えるようになったということです。社長の仕事はなくなりませんでした。むしろ、雑務に埋もれていた本来の社長業が、そこで初めて動き出した感覚があります。
手放しても回るのか、と不安なら
いきなり全部を手放す必要はありません。順番があります。
まずは、いちばん時間を食っている一業務だけをAIに渡します。問い合わせの一次受けでも、返信の下書きでもいい。そのうえで、空いた時間で何が進んだか——判断が早くなったか、後回しだった構想に手をつけられたか——を見ながら、任せる範囲を少しずつ広げます。最終の判断と対応は社長に残るので、任せても会社の舵は自分の手元にあります。事務を一人で抱え込まない仕組みの作り方は一人社長が事務に潰されないための仕組みの作り方にもまとめています。
よくある質問
事務を全部AIに任せたら、社長の自分は暇になりませんか?
暇にはなりません。多くの社長は、事務に追われて判断や構想に手が回っていない状態です。事務を手放すと、その空いた時間が、後回しにしていた判断・お客様との対話・次の一手の検討に回ります。やることがなくなるのではなく、本来やるべきだった仕事に時間を戻す、という話です。
自分が手を動かさないと、現場の感覚を失いませんか?
失う必要はありません。AIに渡すのは判断の要らない入口の事務で、受けるか・いくらで・どう対応するかといった判断は社長に残ります。現場やお客様と向き合う時間はむしろ増えるので、感覚が鈍るというより、雑務に埋もれて見えにくくなっていたものが見えやすくなります。
事務を手放すのは、手を抜くことになりませんか?
手抜きではありません。事務は必要な作業ですが、社長の時間を使わなければできない仕事ではありません。限られた時間を、利益の出る判断や構想のほうへ配り直すことは、手を抜くのとは逆で、会社を前に進めるための時間の使い方です。
何から手放せばいいですか?
いちばん時間を食っていて、判断の要らない一業務から始めるのがおすすめです。問い合わせの一次受けや返信の下書き、書類の下ごしらえなど、後回しになりがちな定型の事務から一つ。効果が見えたら、任せる範囲を少しずつ広げます。
一人社長で、任せる相手も社員もいなくてもできますか?
できます。むしろ、事務も判断も一人で抱えている社長ほど、判断の要らない事務をAIに渡す効きが大きくなります。社員を雇う前に、まず雑務を仕組みに逃がして、社長の時間を判断と構想に戻す——その順番から始められます。
まとめ
「事務をAIに任せたら、自分は何をすればいいのか」という不安は、AIを社長の椅子に座る置き換えとしてイメージするところから来ています。けれど、AIに渡すのは判断の要らない入口の事務で、受けるか・いくらで・誰に任せるかといった判断と最終対応は社長に残ります。だから社長の役割はなくならず、事務に潰れて手が回らなかった判断・お客様との対話・次の一手の構想へ、時間を振り直せるようになります。事務を手放すのは手を抜くことではなく、限られた時間を利益の出る仕事へ配り直すことです。
僕は人を増やして利益を圧迫し、事務に追われて構想が止まった経験をしました。いまは判断以外をAIに任せて一人で会社を回し、空いた時間をようやく本来の社長業に使えています。事務を抱え続けるのが社長の務めだと、僕もどこかで思い込んでいました。けれど実際に手放してみると、会社が前に進み始めたのは、まさにそこからでした。大事なのは、いきなり全部ではなく、いちばん時間を食う一業務から手放して、戻ってきた時間で何が動いたかを確かめながら広げることです。
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