「うちの業務は特殊だからAIは無理」とはどういう状態か
「うちの業務は特殊だからAIは無理」というのは、業務が本当に特殊なのではなく、特殊な判断と、判断の手前にある共通作業が、頭の中でひとかたまりになっている状態のことです。見積もりを例にすると、現場を見て金額を決める部分は確かにその会社にしかできません。でもその手前にある「どんな工事か聞き取る」「面積や希望日をメモする」「日程の候補を出す」は、業種が違っても驚くほど同じ形をしています。ひとかたまりのまま見ているから、全部が特殊に見える。切り分ければ、渡せる部分が現れます。
僕は合同会社9Zを一人で経営していて、自分の会社の事務・営業・問い合わせ対応をAIに任せて回しています。以前は業務委託を増やして組織として広げようとしたのですが、人が増えるほど伝えるための連絡と書類が膨らみ、利益が先に削られました。今は業務委託を一社に絞り、人がやるべき仕事以外をAIへ寄せています。そのとき最初にぶつかったのが、まさに「これはうちにしかできない仕事だ」という思い込みでした。実際に分けてみると、うちにしかできなかったのは決めることだけで、その前後は誰がやっても同じ作業だった。
なぜ経営者は自社の業務を特殊だと感じるのか
理由は、特殊な部分こそが会社の価値であり、日々そこに神経を使っているからです。
塗装業の社長にとって、下地の傷み具合を見て塗料と工程を決めることは、長年の経験の塊です。士業の先生にとって、その会社の事情に合わせて書類の中身を判断することが仕事そのものです。石材店の店主にとって、遺族の心情に沿って言葉を選ぶことは、機械に置き換えられるはずがない。どれも本当のことで、僕もそこはAIに渡すべきではないと思っています。
ただ、一日の時間の使い方を書き出してみると、その特殊な判断そのものに使っている時間は、意外と短い。多くを占めるのは、判断にたどり着くまでの準備です。電話で用件を聞く。メモを台帳に打ち直す。日程を調整する。前と同じ説明をもう一度する。見積もりの数字を清書する。請求書を作る。この準備の部分に、業種ごとの特殊性はほとんどありません。
不思議なことに、特殊性が高い会社ほど、この準備を社長本人がやっています。判断できる人が一人しかいないので、その人のところに全部の連絡が集まる。結果、いちばん特殊な仕事ができる人が、いちばん共通な作業に時間を取られている。これは僕が組織を広げようとして失敗した時期に、身に覚えのある光景です。
特殊な判断と、共通の下ごしらえを分ける線
線の引き方は単純です。「間違えたときに、責任や信用に直結するかどうか」で分けます。
責任に直結するもの。見積もりの金額、工事を受けるか断るか、契約に関する説明、現場の安全に関わる判断、お客さんの感情に踏み込むやりとり。ここは人が握ります。会社ごとに違うのはこの部分で、だからこそ価値がある。
責任に直結しないもの。用件を聞き取る、必要な項目を確認する、内容を書き起こす、日程の候補を並べる、繰り返し説明していることを返す、文面のたたき台を作る。ここは、間違えても人が確認して直せます。そして業種を問わず形が同じです。
この線を引いてみると、たいていの会社で「共通の下ごしらえ」が想像より大きな面積を占めていることに気づきます。うちの業務は特殊だ、というのは正しい。でもそれは、業務全体の一部について正しいだけです。
実際、業種が違っても詰まっている場所は同じ
いろいろな業種の話を聞いていて、いつも同じ形に行き着きます。
電気工事の会社は、現場で手が塞がっている間に問い合わせが鳴る。動物病院は、処置中に予約の電話が鳴る。葬儀社は、施行中に深夜の連絡が入る。畳店は、作業場で採寸している間に相談の電話が鳴る。全部、業種としてはまったく違います。でも構造は一つです。その人にしかできない仕事をしている時間と、連絡が来る時間が、完全に重なっている。
そして、その連絡の中身も似ています。どんな用件か、いつまでに、どこで、いくつ。これを聞き取って残しておければ、手が空いてから判断に進める。逆に言えば、聞き取りが終わっていないから、戻ってからもう一度ゼロから電話をかけ直すことになる。
特殊なのは判断であって、判断の手前で起きている詰まりは、どの業種も同じ穴に落ちています。だからAIに渡せる。渡すのは判断ではなく、判断にたどり着くまでの道のりです。
「それでもうちは違う」と感じたときの確かめ方
一つだけ、試せる問いがあります。その業務を、明日入った新人に頼めるかを考えてみてください。
用件を聞いてメモを残す。台帳に打ち直す。日程の候補を三つ出す。よく聞かれる質問に、いつもの答えを返す。これらは、業種の知識がなくても、手順さえ決まっていれば新人に頼めます。頼めるということは、判断が要らないということです。判断が要らない作業は、AIに渡せます。
一方で、「この現場は下地からやり直すべきか」「この見積もりは受けるべきか」は、新人には頼めません。何年もいる人にしか頼めない。そこは人が持ち続ける部分です。
この問いで仕分けすると、「うちの業務は特殊」というひとかたまりが、渡せるものと渡せないものに割れます。多くの会社で、渡せるほうが先に片付いて、社長の夜の時間が戻ります。
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よくある質問
Q. うちの業界は専門用語が多く、AIが理解できないと思います。
A. 業界用語をAIが完璧に理解する必要はありません。一次受けで必要なのは、どんな用件で、いつまでに、どこで、という骨組みを落とさず残すことです。専門的な中身の判断は、戻ってきた人が行います。用語の理解を前提にしない範囲から始めるのが現実的です。
Q. お客さんへの対応が繊細な仕事です。AIに任せて失礼になりませんか。
A. 心情に踏み込むやりとりは、人が担当します。AIが受けるのは、連絡があったことを受け止め、用件を確認して、担当者へ確実につなぐところまでです。むしろ、忙しくて折り返しが遅れることのほうが、相手の心情を損ないます。
Q. 業務が手順化されておらず、人の頭の中にあります。この状態でも渡せますか。
A. 全部を手順化してから渡す必要はありません。手順が決まっていない業務は、そもそも人にも引き継げていないはずです。まずは、すでに毎回同じ流れでやっている一業務——問い合わせの一次受けや日程調整——から渡し、そこが回ってから広げます。
Q. うちは業務量が少なく、AIを入れるほどではないのでは。
A. 量ではなく、割り込みの回数で考えてください。少ない量でも、本業の手を止めて対応していれば、失われているのはその都度の集中です。一人や少人数の会社ほど、割り込みの被害は大きくなります。
Q. 結局、どこまでAIに任せて、どこから人がやるのですか。
A. 間違えたときに責任や信用に直結するかどうかで分けます。金額の決定、受注の可否、契約の説明、安全の判断、感情に踏み込むやりとりは人。聞き取り、転記、日程の候補出し、定型案内、文面の下書きはAI。この線引きを、業務ごとに一緒に決めます。
まとめ
「うちの業務は特殊だからAIは無理」という言葉は、半分正しい。特殊な判断は確かにその会社にしかできません。でも、その判断にたどり着くまでの聞き取り・転記・日程調整・下書きは、業種が違っても同じ形をしていて、社長の時間をいちばん食っているのはそちらです。特殊なところは人が握ったまま、共通の下ごしらえだけを渡す。この線を引ければ、特殊な業務のままAIを入れられます。
AI従業員の考え方はAI従業員のサービス紹介で詳しく説明しています。任せたときの品質が不安な方はAIに任せると品質は落ちないのかを、「特殊」ではなく「その人の頭の中にしかない」ほうが問題だと感じている方は属人化した業務をAIで引き継げる形にするもあわせて読んでみてください。まずは、新人に頼めそうな一業務から試してみてください。
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